第25回公開憲法フォーラム レポート

各党代表挨拶

主催者による各政党への憲法フォーラムへ出席依頼により、4党の代表者が出席。党を代表して憲法改正について談話を行った。最初の登壇は自民党 柴山 昌彦氏。

自民党憲法改正実現本部副本部長 柴山 昌彦氏

憲法9条のもとでアメリカに依存して自国を守ることができる時代はとうに過ぎた

安倍総理の安全保障担当の首相補佐官を務めてい柴山氏は、日本が厳しい環境にあるとし、新型コロナウイルス感染症の厳しい状況や、ウクライナ、台湾、北朝鮮情勢の緊迫に伴い、国会でも与野党の枠を超えた活発な憲法審査会における議論が展開されていると述べた。特に、コロナによって国会議員の感染者が続出し、国会審議がままならない状況に陥る可能性があるため、アメリカやイギリスでは当たり前のように行っているオンライン出席について、憲法56条の定足数3分の1という出席概念を緩和をすることを取りまとめて議長に報告書を提出したと述べた。また、選挙活動が行えない中で、国会議員任期についても協議が必要であり、思想信条の垣根を越えて各党各会派が協議をする喫緊の必要性に迫られた大きなテーマであると主張した。

自然災害を含む緊急事態について、各党間で生産的な議論が行われることが重要だと述べ、世界の憲法の9割が何らかの形で緊急事態条項を設けている(下記POINT参照)が、日本国憲法では制定時には国家緊急権の実定化が提案されたものの、民主主義を徹底する観点からそのような規定がない点を指摘。衆議院憲法審査会において緊急事態についての議論が進み、論点が煮詰まってきており、緊急事態とはどのような事態を指すのか、内閣による事態認定や国会の承認手続きが必要であること、国会が機能している間は内閣不信任案の決議や衆議院の解散をしないことなどが盛り込まれることについて、ほとんどコンセンサスができているとした。また、内閣による超法規的行為を防ぐための緊急政令や緊急財産処分についても、多くの政党の理解を得ながら歯止めを伴った形で成立させることが必要だと述べた。

また、柴山氏は、安全保障の問題についても非常に大きなテーマであると主張。憲法9条を守ろうとする方々の集会が行われている一方で、憲法9条のもとでアメリカに依存して自国を守ることができる時代はとうに過ぎ去っており、日本の憲法に最低限の国防や自衛隊についての規定を盛り込むことが必要だと述べた。2017年5月3日、安倍総理は憲法改正記念日に寄せたメッセージで、憲法9条1項2項はそのままにして自衛隊を憲法に書き込む9条2項を創設する提案した事に触れ、戦後一度も行使されたことのない国民投票を成功に導くために、平和主義を原則とする憲法を維持しながらも必要な自衛の措置を定める加憲の政策を取ることが重要であり、シビリアンコントロールの確保も含め、各党会派と意思を共有し、1日も早く憲法改正を実現することが必要だと述べた。

世界の憲法の9割が何らかの形で緊急事態条項を設けている

ケネス・盛・マッケルウェイン東大教授の研究によると、1789年から2013年までに制定された約900にのぼる憲法のデータを分析したところ、2013年時点で、93.2%の憲法において緊急事態条項を含まれており、今や緊急事態条項は憲法における最も共通した項目の一つとなっている。
また、緊急事態が宣言できる状態については、一番多いのが外国からの武力攻撃で64%、次に、内乱で45.6%、次が災害で39.7%で1990年以降、最も急ペースで規定率が上がっていること。
その一方、緊急事態を宣言できる状況を法律で定めるとしている憲法は10%に満たないということ。これは、緊急事態を法律で定めると、政府の重大な権限行使を議会の単純過半数で決定できるため、法律に委任することに慎重な態度をとっていると考えられる。(引用

柴山 昌彦 氏プロフィール

現在7期目の自民党衆議院議員。自民党幹事長代理、自由民主党埼玉県支部連合会会長。文部科学大臣(第24代)、内閣総理大臣補佐官(第3次安倍第1次改造内閣)、総務副大臣(第2次安倍内閣)、外務大臣政務官(福田康夫改造内閣・麻生内閣)、衆議院内閣委員長、自由民主党総裁特別補佐・筆頭副幹事長、政調会長代理等を歴任。

公明党憲法調査会事務局長 濱地 雅一 氏

続いて、公明党を代表して 濱地 雅一氏が登壇した。

自衛隊の憲法明記は多くの国民の理解が得られる

国会議員の任期延長の憲法改正案が憲法審査会で議論が進んでいるとし、東日本大震災の際には、地方議会選挙が法律で6カ月間延長され、地方議員の任期も延長されたが、国会議員の任期は憲法で4年または6年と定められており法律改正では対応できないため、国会機能維持の観点から与野党を超えて早急に取り組むべきだと述べた。参議院の緊急集会は基本的に70日間、衆議院が空白となったときの規定であり、通常の予算審議なども行えない可能性があるため、一定の限界があると述べています。そのため、国会議員の任期延長問題は現実問題であり、早急に取り組むべき課題だと述べた。

また、自衛隊の存在が国防規定にないことは現憲法の不備だとし、自衛隊を正面から書くか、他国の国防規定にあるように民主的コントロールを明記するかについては、様々な意見があるが、浜地氏は自衛隊を明記することで、多くの国民の理解が得られると述べた。ただし、自衛権の範囲まで書いてしまうと、憲法9条1項2項を維持したまま自衛隊を明記する場合(加憲・POINT参照)、解釈の問題が生じる可能性があるのを懸念しており、まずは自衛隊の存在を民主的コントロールの側面から書き込むことが重要だとした。ただし、公明党内でもこの議論が浸透していないため、今後党内や国民に発信しながら進めていきたいと述べた。公明党は加憲の立場であり、現下の安全保障の厳しい環境や世界が変わってきた状況を踏まえ、何を書き加えるべきかを検討しており、今後も党内の憲法議論や憲法審査会で議論を進めながら、国民に理解を得られる憲法改正案に向けて努力していくと決意を述べた。

憲法9条加憲とは

憲法9条に自衛隊を明記することです。自民党は「現行憲法は、GHQの占領下で制定されたため、国防に関する規定がないままだ。9条に国防規定と自衛権を明記することは憲法の欠落を補うものであり、防衛政策の内容や性質に変更をもたらすものではない」と主張しています。一方で、立憲民主党は「自衛隊は合憲で、その役割と必要性は国民に十分理解されているので、自衛隊の明記は必要ない。議論すべきは、自衛隊の運用が、専守防衛などの規範をなし崩し的に超えてきている事実だ」と指摘しています。

参考:“憲法9条に自衛隊 明記の是非” 衆院憲法審査会で各党が主張 | NHK

濵地 雅一(はまち まさかず)氏のプロフィール

公明党衆議院議員。憲法調査会事務局長、安全保障部会部会長の役職に就く。安全保障委員会・理事、北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会・理事、憲法審査会委員所属。

日本維新の会政務調査会長 音喜多 駿氏

続いて、憲法改正について積極的な姿勢を示している日本維新の会より、政務調査会長の音喜多氏が登壇した。

緊急事態条項は、国民の人権権利を守り、立法府を機能させるために必要

日本維新の会は、2016年には教育の無償化、統治機構改革、憲法裁判所の設置という3点の憲法改正の条文案を発表。昨年には憲法9条の改正、緊急事態条項の明記についても党内の意見を集約し、独自の条文案を発表。今国会では、国民、民主党、有志の会と党派を超えて、緊急事態条項の議員任期延長に係る部分の具体的な条文案まで示したと述べた。緊急事態条項については誤解もあるが、これは政府の権限を強くして人権を奪うものではなく、国民の人権権利を守り、立法府を機能させるために必要であると主張した。

また、衆議院では活発な議論が進む中、参議院の議論は低調であると指摘し、野党第1党の筆頭幹事は許しがたい発言をしたと糾弾。日本維新の会は、消極的な参議院の議論もリードしていきたいと考えていると述べた。緊急事態条項、憲法9条の改正に正面から取り組み、結論を出すときが来ており、ゴールを見据えて議論をする必要があるとし、国民投票の実現に向けて、一刻も早くゴールにたどり着けるよう、邁進していきたいと述べた。

緊急事態条項の議員任期延長とは

日本維新の会と国民民主党、衆院会派「有志の会」の2党1会派が公表した大規模災害などの緊急時に国会議員の任期を6カ月を上限に延長でき、再延長も可能とする条文案です。緊急事態について条文案は①武力攻撃②テロ・内乱③大規模自然災害④感染症の大規模まん延⑤4類型に匹敵する事態――を規定しています。

引用:緊急時の議員任期「半年ごと延長」 維新など憲法条文案 日経新聞

音喜多 俊(おときた しゅん) 氏 プロフィール

1983年9月21日、東京都北区生まれ。2006年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループに勤務。2013年6月、東京都議会議員選挙に初当選し、2期務める。2019年7月、日本維新の会より参議院議員選挙東京都選挙区に出馬し、参議院議員に。日本維新の会政調会長。

国民民主党代表 玉木 雄一郎 氏

続いて、国民民主党代表 玉木 雄一郎氏が登壇。国民民主党は「緊急事態条項」をめぐり、緊急事態の宣言や国会議員の任期延長を行う際の手続きなどを盛り込んだ憲法改正の条文案をまとめています。

9条2項を削除する案も排除せずに、憲法審査会で議論を

提言冒頭で、玉木氏は宮古島沖でヘリコプター事故で亡くなられた自衛官に心から哀悼の誠をささげた。国民民主党は緊急事態条項を去年の12月にまとめていると述べ、日本の憲法体系には平時と有事を分ける明確な体系がなく、有事の特殊な状態をコントロールする法体系が憲法上ないと指摘。大規模災害、大規模な感染症の拡大、外国からの攻撃、内乱テロの4分野に関しては、有事体系を憲法体系を定める必要があると主張。現在、衆議院の憲法審査会では踏み込んだ議論が行われていると述べ、議員任期の延長については具体的な条文案が提起されており、今後は緊急事態条項憲法9条の改正に正面から取り組み、結論を出すときが来ていると述べた。

また、自民党の憲法改正案9条改正案は生ぬるいと述べた。自衛隊を明記すれば組織としての自衛隊の違憲論は解消されるが、9条2項は陸海空その他の戦力はこれを保持しないと書いてあるため、依然として違憲論が残るため、国防規定を設けるべきだとした。9条2項を削除する案も排除せずに、憲法審査会で議論し、立法府として違憲論を解消できる国防規定をつくっていきたいと述べた。

自衛隊違憲論とは

自衛隊の存在そのものが憲法違反であるという主張です。2015年の朝日新聞の調査では、6割以上の憲法学者が自衛隊を違憲としています。憲法9条は、戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否定を定めており、この条文により、日本は一切の戦争を放棄し、一切の戦力を保持しないことが定められています。このため、自衛隊が憲法9条によって放棄される「戦力」にあたるかどうかが議論されています。

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