第25回公開憲法フォーラム レポート

基調

来賓挨拶に続き、主催者代表の櫻井よしこ氏による基調講演が行われた。櫻井氏は本フォーラムの共催団体である「民間憲法臨調」ならびに「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の代表も務めている。

ジャーナリスト 櫻井よしこ氏

実のない憲法審査会を延々と続けすに、直ちに憲法改正に取り組め

桜井氏は先人たちが書き残したものを読み、彼らは理念だけでなく、国際社会の現実をよく見ており、周囲の国々の力のあり方や動きをよく観察していたと述べた。また、現在、私たちも混乱の中におり、理念は大事であるが、国際社会の現実を見なければいけないと述べた。

戦後の秩序が崩れている現状を見ると、日本は小さな変化にとどまっている。ドイツはウクライナ問題で対露政策を変え、韓国は北朝鮮の核開発に対応して自前の核を検討している。日本も大きな変化を求められていると指摘。

隣国の韓国は政権がたびたび変わり、その政策も変わる危険性があるため、信頼性が低いという声があるが、韓国は北朝鮮の核攻撃の脅威に対して、現実を見て対処していると指摘。元大統領のユン・ソンニョルは日本との関係を改善し、アメリカのバイデン大統領と会談。彼は我が国にアメリカの核を再配備するか、それとも自前の核を開発するか、どちらかだと言い、前大統領のムン・ジェインの北に従う平和志向という外交を180度変えたと述べた。

韓国の政権がたびたび変わり、その政策も変わる危険性があるため、信頼性が低いという声があるが、韓国は北朝鮮の核攻撃の脅威に対して、現実を見て対処していると述べた。元大統領のユン・ソンニョルは日本との関係を改善し、アメリカのバイデン大統領と会談。彼は我が国にアメリカの核を再配備するか、それとも自前の核を開発するか、どちらかだと言い、前大統領のムン・ジェインの北に従う平和志向という外交を180度変えたと指摘。

一方、我が国では、岸田政権の安全保障3文書は高く評価するが、自衛隊の現状は変わらず、中国の圧力に対して国民を守れるのだろうかと問題視した。

国民は憲法改正が必要だと思っており、政治家は国民の意思を吸い上げるべきだという主張がある。この主張は、西暦604年に作られた聖徳太子の十七条憲法の十七条目には「国民の意思を聞きなさい」とあり、その精神を引き継いだ五か条の御誓文でも継承されている。昭和天皇もこの考えを支持し、日本は民主主義を実践してきた国である。現代の政治家も国民の声を聞くことができるはずであると述べ、実のない憲法審査会を延々と続けるようなことはせず、直ちに憲法改正に取り組んでほしいと憲法フォーラムに参加している立法府の方々、その方々が所属する政党の方々に要請した。

安全保障3文書とは

安全保障3文書とは、日本政府が決定した「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」の3つの文書のことです。これらの文書は、日本の安全保障政策における基本方針を定めたもので、敵の弾道ミサイル攻撃に対処するため、発射基地などをたたく「反撃能力」の保有が明記されています。「反撃能力」とは、敵の弾道ミサイル攻撃に対処するため、発射基地などを攻撃できる能力のことであり、政府は、「反撃能力」があることを示すことで日本への攻撃を思いとどまらせることが狙いだとしています。

参考 【詳しく】日本の安全保障の大転換 “安全保障3文書”閣議決定 | NHK

櫻井よしこ氏 プロフィール

「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局員、日本テレビ・ニュースキャスター等を経て、フリー・ジャーナリストとして活躍。『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』(中公文庫)で大宅壮一ノンフィクション賞、『日本の危機』(新潮文庫)を軸とする言論活動で菊池寛賞を受賞。2007年に国家基本問題研究所(国基研)を設立し理事長に就任。(引用

前防衛事務次官 島田 和久氏

続いては、第2次安倍内閣において故安倍晋三元首相の秘書官を異例の6年半以上務めた最側近の一人である島田和久氏が登壇しました。

憲法9条の下で米国に依存して安全を確保する時代は完全に終わった

島田氏は37年間、国を守るための仕事をしており、その間、憲法と向き合い、内閣法制局と直接対峙。法制局の担当者は普通の役人であり、憲法の専門家でも安全保障の専門家ではなく、過去の国会答弁を参考に仕事をしている。しかし、安全保障の現実を見るとき、前例に従うことはできないため、憲法が許す限りの隙間を縫って多くの法律が作られ、その結果が今のポジティブリストと呼ばれるものであり、その結果、自衛隊員が自分の命よりも憲法を守ることを強いていると主張。これは憲法が自分の国は自分で守るという独立国家として最低限の意思さえ示していないからであると述べた。

また、島田市は、現行憲法は敗戦によって日本が占領下に置かれ、主権を失った状況のもとで、占領軍当局の強い影響のもとに制定されたものであると指摘。日本占領の究極の目的は、日本が再び米国の脅威とならないようにするためであり、憲法に国防や緊急事態に関する規定が存在しないのは、占領政策の当然の結果であるとした。日本が独立を回復するころには、憲法前文にある平和を愛する諸国民を信頼するという理想は既に現実味を失っており、東西冷戦という国際情勢の大きな変化を受け、日米安全保障条約を結び、米国に依存して日本の安全を確保する選択。しかし、それから70年、世界は根本的に変わり、新冷戦と呼ばれる状況があるが、日本にとっては冷戦よりも厳しい状況であり、北朝鮮のミサイルが日本上空を飛ぶことや中国による尖閣諸島への領海侵犯が起こっていると述べた。

権威主義国家が力で一方的に世界を変えようとしている一方、米国は戦後国際平和の維持に大きな役割を果たしてきましたが、オバマ大統領は米国はもはや世界の警察官ではないと宣言し、トランプ大統領は二正面作戦(2つの異なった敵と戦う事)を放棄し、バイデン政権は一正面でも対処ができないと言っており、憲法9条の下で米国に依存して安全を確保する時代は完全に終わったと述べた。

安倍政権において集団的自衛権の行使が可能になり、岸田政権が防衛力の抜本的強化を決定しましたが、自分の国を自分で守るこの独立国家としての最低限の意思さえ示していない憲法の下で、これから先もこの国を守っていけるのかと疑問を呈し、憲法において、緊急事態に対する国家の備えを明確にし、国防に当たる人々の存在を明確な位置づけすることが日本の国土を揺るぎないものにしていく最善の道だと述べた。

ポジティブリストとは

法律によって「行うとされる行動」が主眼に規定されている方式のことを指します。一般的に、軍隊の行動は国際法的な面で「ネガティブリスト」方式で、「行ってはいけない行動」を主眼に規定されますが、自衛隊の行動は国内法的な面で「ポジティブリスト」方式であり、「行うとされる行動」が主眼に規定されています。(引用 自衛隊の行動)これにより、自衛隊は法律によって明確に規定された行動のみを実施できますが、法律に規定されていない行動は実施することが難しくなっています。

日本国憲法 前文

日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民と協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。われらはこれに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。われらは全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和の内に生存する権利を有することを確認する。
われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけて、全力をあげて崇高な理想と目的を達成することを誓う。

島田 和久氏 プロフィール

1985年防衛庁入庁、防衛庁装備局管理課部員、防衛庁防衛局計画課部員、防衛庁長官官房総務課部員などを歴任。その後、2009年8月に内閣官房内閣参事官(内閣官房副長官補付)、2011年8月に防衛省防衛政策局防衛政策課長、2012年9月に防衛省大臣官房審議官、2019年7月に防衛省大臣官房長、2020年8月から2022年7月まで防衛事務次官を務めた。

元陸上幕僚長 岩田 清文氏

元自衛官である岩田氏は、日本国憲法における自衛隊の位置づけとその曖昧性についての議論を述べ、憲法改正による自衛隊の明確な位置づけを望むなど、憲法に関する思いを4点述べた。

台湾日本有事の危機が叫ばれる中、憲法改正、待ったなし

1点目は、憲法9条2項の削除と自衛隊の明記。自衛隊員は入隊時に自衛隊法に基づき服務の宣誓を行い、危険を顧みず国民の負託に応えることを誓い、命を賭してでも国を守っている。しかし、同じ服務の宣誓の中には、日本国憲法及び法令を遵守するという一文も含まれており、日本国憲法における自衛隊の位置づけは今もなお意見が分かれており、多くの憲法学者や一部政党が自衛隊は憲法違反だとする立場であり、日本国家として世論を二分する曖昧な解釈が継続していると述べた。

また、自衛隊員は入隊時に自衛隊法に基づき服務の宣誓を行い、危険を顧みず国民の負託に応えることを誓うが、同じ服務の宣誓の中には、日本国憲法及び法令を遵守するという一文も含まれていると指摘。日本国憲法における自衛隊の位置づけは今もなお意見が分かれている中で、自衛隊員は自己犠牲による利他の精神で職業を実践する崇高な価値観生きざまを持っていると述べた。そして、国家として自衛隊員に命をかけろというなら、その隊員の気持ちを理解し、あるべき姿に改革していくのが立法府の責任だとした。憲法9条2項の曖昧性は、隊員たちの意識や指揮への影響だけでなく、国の安全保障を健全かつ真正面から議論することを阻害してきました。岩田氏は、これらの矛盾を今後も自衛隊員たちに押しつけることなく、国民の意思として国の最高法規である憲法に自衛隊が明確に位置づけられることを切望しており、9条2項を削除し、誰が読んでも自衛隊が合憲となるよう改正して欲しいと述べた。

2点目に緊急事態条項の明記を挙げた。危機管理の鉄則は最悪の事態を想定して備えておくことであり、東日本大震災における原発事故は安全神話のもと、最悪の事態を想定していなかったことが原因だと述べています。国家としての危機事態は、パンデミックや大規模災害だけでなく、外国からの武力侵攻や国際的なテロも念頭に置く必要があります。あらゆる危機事態において、社会全体が混乱する中でも、国の立法行政司法が確実に機能するよう基本的な枠組みを憲法に規定しておくことが必要不可欠です。

3点目には、憲法前文にある国際情勢認識の修正を挙げた。前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼してわれらの安全と生存を保持しようと決意した」という情勢認識は現実の世界と大きくかけ離れており、ロシアがウクライナに侵略戦争を引き起こしている現実を念頭に置いた上で、より厳しい情勢認識に改める必要があると述べています。ウクライナの現実は、他力本願ではなく、自分の国は自分で守り、力には力で抑止するほかないことを示していると述べた。

最後に、憲法改正の議論において、単に条項の修正だけでなく、日本国家としての生き方や生きざまも含めた議論が重要だと指摘。前文にある「国際社会において、名誉ある地位を占めたい」ということは大事であり、これを実現するためには、1国平和主義から脱し、積極的平和主義に進むべきだと述べています。民主主義対権威主義体制主義との戦いを繰り広げているウクライナに対し、殺傷兵器を供与できない日本の今の姿では、名誉ある地位を占めることはできないと述べた。そして、憲法改正は70数年間待ったからまだ待てるという悠長なものではなく、台湾日本有事の危機が叫ばれる中、待ったなしであると訴えた。

自衛隊員の服務宣誓

私は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行にあたり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います

転載:秋田県自衛隊家族 FBより

極的平和主義とは

世界の平和と安定のため、紛争・侵略・テロといった国際問題の解決に、より積極的に寄与していくという、第2・3次安倍晋三内閣が掲げる安全保障政策の基本理念です。積極的平和主義が目指す具体的内容としては、専守防衛や軍縮などのような平和国家としての原則を維持しつつ、PKOなど国連の安全保障措置に積極的に参加することなどです。

岩田 清文 氏 プロフィール

1957年生まれ。元陸将、陸上幕僚長。防衛大学校を卒業後、1979年に陸上自衛隊に入隊。戦車部隊勤務などを経て、米陸軍指揮幕僚大学(カンザス州)にて学ぶ。第71戦車連隊長、陸上幕僚監部人事部長、第7師団長、統合幕僚副長、北部方面総監などを経て2013年に第34代陸上幕僚長に就任。2016年に退官。(引用

関西大学特別任命教授 河田 恵昭 氏

続いては、災害学と防災学における研究と教育に貢献しており、政府関連の委員会にも参加する関西大学特別任命教授 河田 恵昭 氏が登壇した。

南海トラフ地震が起こる前に、緊急時条項の創設を

今年は関東大震災から100年。関東大震災では死者・行方不明者10万5000人のうち、その9割が火災による犠牲だった事より、都市で地震が起こっても火災さえ発生しなければ多くの死者が出ないと言われていたが、これは全く間違っている指摘。首都直下地震が起こった場合、首都圏全体約3,000万人住んでいる地域が1カ月以上停電する危険性がある事を防災研究の第一人者の方々が指摘していると述べ、新潟の柏崎刈羽原発を再稼働させる事により停電は計画停電という形で乗り越えられると主張。

南海トラフ巨大地震が起きた場合、100万人が亡くなると述べ、我が国には避難行動要支援者が800万人いると指摘。震度弱6強の地域には3メートル以上の津波が来るため、避難タワーは350メートル以内の人が助かるように作られているが、東日本大震災で逃げた人は平均438メートル歩いたと指摘。

また、日本の土木学会の岩田氏の日本の歴史災害について論文によると、日本で巨大災害は1500年間に99回起こっていることがわかったと述べ、東日本大震災から12年たった今、次の巨大地震が起こってもおかしくないと主張。大日本帝国憲法は明治22年に伊藤博文がドイツの憲法をベースに草案を作ったが、ドイツは建国以来1000人以上亡くなる大災害が起こったことはなく、イギリス、フランスも同様。また、アメリカ合衆国は1851年から現在まで死者1000人以上の災害は3回しか起こっていないと述べた。

南海トラフの巨大地震が起きた場合、大阪は13万8000人亡くなる。南海トラフ地震が起こる前に、緊急時条項をつくらなければいけない。起こってから反省して憲法に変えても、役に立たないと主張し、現在、ニューレジリエンスフォーラムは国民運動として緊急事態条項を憲法に明記するように運動をおこなっていると述べた。

【南海トラフ地震】
南海トラフ地震は、駿河湾から日向灘沖にかけてのプレート境界を震源域として概ね100~150年間隔で繰り返し発生してきた大規模地震です。前回の南海トラフ地震(昭和東南海地震(1944年)及び昭和南海地震(1946年))が発生してから70年以上が経過した現在では、次の南海トラフ地震発生の切迫性が高まってきています。(引用 気象庁

政府は、南海トラフの巨大地震が起きると、最悪の場合、死者は32万人を超え、経済被害も220兆円を超えると想定しています。政府の地震調査委員会は、南海トラフで今後30年以内にマグニチュード8~9級の地震が発生する確率を「70%~80%」、今後40年以内にマグニチュード8~9級の地震が発生する確率を「90%程度」としています。(引用 NHK WEBニュース

ニューレジリエンスフォーラムとは

ニューレジリエンスフォーラムは、感染症と自然災害に強い社会をつくるために広く各界と連帯し緊急事態に対応する国民的論議を推進することを目的として設立された組織であり、医療界、経済界、防災関係、自治体関係など、緊急事態の対応に従事している人々の現場からの声を集め、課題を明らかにし、広く各界と連携した提言をおこなっている。

下記の御三方が共同代表を勤めている。
河田 惠昭(関西大学特別任命教授・社会安全研究センター長)
松尾 新吾(九州経済連合会名誉会長)
横倉 義武(日本医師会名誉会長)

河田 恵昭 (かわた よしあき)氏 プロフィール

関西大学特別任命教授。京都大学の防災研究所で助教授として働き、1993年に教授に昇任。1996年には巨大災害研究センター、阪神・淡路大震災記念の人と防災未来センターの長や防災研究所の長も務める。現在は京都大学の名誉教授として活動。(出典

麗澤大学准教授 ジェイソン・モーガン氏

改憲ができていない状況こそ国難だ

ジェイソン氏は、戦後の日本は戦前の大義を捨て、アメリカの占領思想に従っているとし、日本はアメリカとの関係を断ち切り、非白人国家と平等な関係を築くべきだと主張。憲法が戦後75年以上が経っても、ただの1文字も変えることができていないのは国難のそのものであり、アジアでの白人支配を終わらせることが必要だと主張した。

ジェイソン・モーガン氏 プロフィール

麗澤大学国際学部准教授。日本史と法社会学史の専門家で、日本の法社会学の沿革と日本におけるプローライフ運動の歴史を研究。産経新聞「正論」のコーナーにも執筆する。
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